性不能夫婦の物語『夫のちんぽが入らない』から静かな魂の叫びを感じた

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2014年に開催された文学フリマで販売された同人誌「なし水」に1万字ほどの長さで掲載された、こだまさんの自身の実話を元にした半自叙伝「夫のちんぽが入らない」が加筆修正され、2017年自身初の書籍である『夫のちんぽが入らない』が扶桑社から発売されました。

題名のインパクトはさることながら、文章の上手さや質の高い物語構成に多くの人が感想や感嘆の声をWebに寄せています。

特に、ドラマ化された漫画『サプリ』などで人気の漫画家のおかざき真里さんは、この作品を自身の公式Twitterで紹介したいがために16歳未満のフォロワーをブロックしてまで熱意たっぷりに勧めて話題となりました。

【注意】
本稿にはネタバレが含まれます。未読の方、ネタバレを嫌う方はご注意ください。

手に取るのが遅れた理由

発売された当初、その題名のインパクトから私もいずれ読まないといけないなと思ったことを覚えています。しかしながらプライベートの忙しさや後述する理由から、ようやく手に取ったのは5月でした。

既に多くの人がWebで読書感想を寄せていたために、そのいくつかをちらほらと読んでおりだいたいの内容は把握しているつもりでした。
Webでの感想は主に「驚くほど文章が美味い」「性行為の描写になるほど筆が乗っている」「夫のちんぽが入らなくて悩んだ小学校教師がネットで出会った人と変態セックスを繰り返す話」というもの。そして、絶賛されたものが多かったように覚えています。

どの感想も非常に「この作品を読んでほしい!」という気概に満ちていました。しかしながらひねくれ者の私は「質の高いサブカル漫画によくありそうな内容ね」と心の中で思ってしまったことで、手に取る時期が遅くなったと言っても過言ではありませんでした。

私は小説も映画も好きですが、無類の漫画好き。そして、ちょっと切なくて尖っていて他人との性的な関係が上手くいかないゆえに紡がれた物語が大好きなのです。そういう物語で、特に漫画作品については多く読んでいたつもりでした。それゆえに「きっと自分が読んできた作品よりも、果たしておもしろいか……」という、どこか斜に構えた思いがありました。

かつて漫画家の中村明日美子さんが世に出はじめたときの衝撃、山本直樹さんの作品を初めて読んだときの倒錯的な感動、河内遙さんが売れ始めたときの嬉しさ、岸虎次郎さんの秘められた羞恥心……私がかつて得たような幾多の感動に勝るものが、この作品にはあるのだろうかと愚かにも構えてしまっていたのです。

しかしながら、当然ながらこれは私の奢りでした。

性不能夫婦の物語『夫のちんぽが入らない』から静かな魂の叫びを感じた

物語のあらすじ

『夫のちんぽが入らない』は題名の通り、夫の陰茎が主人公である妻の膣内に入りきることが困難ゆえに抱いた悩みをベースに紡がれる物語です。
夫は大きすぎるアソコの持ち主ですが、風俗や過去の彼女たちとはセックスをしていたことから過去に1度しか経験のなかった主人公の膣も通常よりは細く狭い造りなのかもしれませんが、そこに関しては言及されません。

大学1年生で東北の“ド”がつく田舎の集落から東北の地方都市にある大学に進学した主人公は、同じアパートに住む1学年上のちょっと口が悪くて図々しいけれど面倒見が良く野性的な性格の「彼」と付き合い始めます。彼が先に大学を卒業し教師となり、彼女も同じく教師の道を歩み、2人は晴れて結婚します。

しかしながら、付き合い始めた当初から彼のアソコが大きすぎることが原因し、セックスが完了することはありませんでした。
彼が挿入する擬音「でん、ででん、でん」。まるで陰部を拳で叩かれているような振動があり、まったく中に入っていかないのです。

それでも何とか工夫して挿入に成功するようになるものの、主人公の陰部は裂傷し平和なセックスとは言えない状態が続きました。欠陥品のような体に悩みつつも、勤務する小学校で受け持ったクラスが学級崩壊を起こした頃から主人公はネットで出会った見ず知らずの男性と関係を持ち始めます。流血の伴わないセックスをしたことがなかった主人公は、ごくごく普通にセックスができてしまったことに驚きつつも安堵するのです。

一方で夫は主人公に悟られないよう風俗通いを続けていますが、主人公はその店のポイントカードを見つけてしまい、彼の風俗通いを気づいているものの咎めることはしません。セックスができないこと以外、夫婦の関係は良好でした。
結局学校を辞めてしまった主人公は、今度は関節に痛みを伴う免疫系の病気を発症して苦しみますが、その最中に妊活することを決意します。

ちなみに、実際に男性のアソコが入らず裂けてしまうことがあるのかどうか、現役ソープ嬢の大原カンナさんに聞いてみたところ、
「お客様でコンドームがLLサイズの方がいらっしゃったことがあります。サイズは直径46mm以上。私は身長が166cmあるので体も大きく膣穴も大きめだから入りましが、小柄の人は入らないこともあると思いますよ。膣の奥行きや子宮の大きさは女性によって違います。太いモノを挿入する場合、一度に全部入れようとはせず少しずつ膣を拡張しながら入れるなど、お互いの努力がかなり必要になります」。
図らずも超巨チンに生まれてしまった男性と、そんな男性と褥を共にする女性の悲劇は実際に多くあるのかもしれません。

「子どもを持つこと・持たないと決意すること」

センセーショナルな題名や主人公が夫以外の人と行う奇異なセックスに焦点が当てられがちな今作。たしかにその部分もこの小説のおもしろさですが、読者が物語に置いて強く感じ取った部分があるとすれば、それは「子どもを持つこと・持たないと決意すること」という点が丁寧に書かれている部分ではないでしょうか。

近年、日本は少子化の一途をたどっており、金銭的な理由や病気を理由に子どもを持たない夫婦は増えています。
この物語の主人公は、結局病気で子どもを持つことができませんでした。
それゆえに事情を知らない人からの「お子さんはまだ?」「まだまだ(子どもを)つくれるよ」という声に傷つき続けます。中には、新しく勤務した先で主人公ではなく別の同僚に向けて「子どもがいないから、子どもたちの気持ちがわからない」という声にもいたたまれない気持ちになったりもします。
その声に悪気はなく、善意だったり悪気ない言葉であることは主人公も重々承知しながらも「欲しくてもつくることができない」人間を残酷に傷つけることを静かに描写します。
「産まないのはおかしなことだと思われているのだろう。」という主人公の独白に、はっとさせられます。

しかし、主人公はそんな人たちを責めることはしません。かつて自分を責めていた主人公は、物語の終焉に向けて「私の声、届くだろうか。」と残酷な善意を投げかけてくる人々に静かに問いかけます。

毒親育ちである主人公が愛することができる人と出会い、性不能の状態に陥り、それでも子どもを持とうと努力して結果持つことができなかった。
それは何らおかしなことではなく、懸命に選びぬいた選択肢の1つとして尊重されるべきことです。

私がこの物語で一番好きだったのは主人公が妊活のために治療薬を断ち、症状に苦しんでいたときに夫が彼女にかけた言葉です。
「あんたの産む子が悪い子に育つわけがない」。
この国に住む人全てにぜひ読んでもらいたい名著です。

<参考>
『夫のちんぽが入らない』こだま著 2017年 扶桑社

(貴崎ダリア / 画像提供・扶桑社)

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  • Article URL: https://pinkma.jp/fusosha-books-ottonochinpogahairanai
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