兄×妹モノの真髄・神寺千寿『あいくるしいから壊したい』に女子の夢と希望を垣間見る

ネットコミック各社で公開中の神寺千寿さんの『あいくるしいから壊したい』は高校生の兄と妹の切ない恋愛モノです。いわゆるティーンラブカテゴリの漫画になりますが、セックスを主体としているよりは登場人物たちの繊細な心理描写の移り変わりが描かれており人気が高い作品です。

ケータイマンガのヒット作家

ケータイマンガのヒット作家

もともと神寺さんの作品では、ケータイ漫画で配信されている『デキちゃうけど、ナカでもいいよね』がヒットし、一時期多くの広告で宣伝され話題になりました。主人公の少女が同級生の好きな男の子と両思いになるものの、実は過去にその兄から強引に関係を持ちかけられていたという短編漫画。

繊細な絵柄とシリアスなストーリーに魅了されたファンが多かったようで、長編漫画となる『あいくるしいから壊したい』や、同じく近親相姦を描いた『弟の顔をして笑うのはもう、やめる』が高い評価を受けています。

『あいくるしいから壊したい』は高校生の橘あゆみが、1つ年上の兄・義之から半ば強引に関係を結ばれながらも、互いに想い合う心を秘めて成長していくストーリー。

義之はあゆみと関係を持った後、想いを断ち切るために同級生とつきあい始めます。あゆみもそんな兄と彼女の情事を目撃してしまったことから、以前から想いを寄せていてくれた化学担当教員の遠藤と付き合始めます。しかしながら、それぞれが恋人をつくったものの、お互いへの想いは断ち切ることができず罪悪感を抱きながら増大していく愛情を必死に抑えようとしますが……。

近親相姦モノと言えば

近親相姦モノと言えば

近親相姦モノと言えば、昔からタブーものの中でも決して結ばれない悲劇として人気が高いジャンルです。

兄×妹モノと言えば、個人的に吉田基已さんの『恋風』(講談社)、小野塚カホリさんの『NICO SAYS』(祥伝社)、岡崎京子さんの『愛の生活』(角川書店)が思い浮かびますが、そのどれも「結ばれてはいけない」という倫理観と抑えきれない愛情、そして性愛が当事者2人の間に漂っています。

読者はそんな作品を「結ばれることがないのに、こんなにも好き合っていて苦しい」と切なくも胸ときめかせながら読んでいることが窺い知れます。

タブーを題材にした作品は近親相姦に限らず、そのタブーが愛し合う2人の障害となり、それゆえに悩んだり苦しんだりしつつも愛情を抑えきれないという点に“萌え”を感じます。特に性と無縁だった幼少期から一緒に暮らし、他人には割り入る余地を与えない兄妹の間に発生する恋愛には、兄や妹がいない人たちにとっては憧れの的です。

なぜなら、そこにあるのは他人とする恋愛とは違い、家族愛に加算された本来発生しないはずの性愛だからです。

通常家族には性愛を抱かないものですが、その法則を突き破るほどの想いがお互いにあったという状況。そこには、例えば「彼を恋人にしたら格好がつく」「美人彼女を横に連れて歩いたら自分が誇らしい」「こういうレベルの高い人に好かれていると、周りに一目置かれる」と言った世間体や純粋な恋心以外の不純な動機が含まれません。世間には隠さなければならない恋愛だからです。

関係を隠し通さなければならず、交際を決して周りに祝福されることがないことをわかりきっているにも関わらず、抑えることができないほどの想い。そしてそんなにも強い想いであるのに、成就することはないという悲劇に萌え悶えるのです。

中には血縁者だからという理由で性愛を抱く稀有な人もいるかもしれませんが、そうすると恋愛感情を抱く動機が不純となるため(血縁者であるというのはネガティブ要素であることが前提であるため)、あまりそういう描かれ方はしません。

リアリティを出すには? と丁寧に考えられている

リアリティを出すには? と丁寧に考えられている

悲劇の魅力は自己犠牲を払ったゆえに訪れるカタルシスが多いに含まれるから、という考え方もありますが、読者が人物に感情移入し感嘆のため息を漏らすのは、少なからずその心理描写にリアリティを感じるからです。

兄妹モノというジャンルは人気ゆえに確立されすぎて、一部「こんな展開はありえない」という作品も多く見られるようになりました。「ありえない」と思う理由はあまりにリアリティがなさすぎるからです。

作者に、実際に兄や妹がいる場合は描きやすいかもしれませんが、いなかったとしても取材や下調べが充分にされ心理描写が丁寧に描かれた作品が読者の心に響くことが多いようです。心のどこかでは「ありえない」と思いつつも、「ありえるかもしれない」と思ってしまうような要素が、ヒット作品には含まれているのではないでしょうか。

もちろん、リアリティが全くないからこそ良いという作品もありますが、現実で実際に触れることがないからこそリアリティを求めるファンは多く、それに答えようと鋭意する作者には登場人物や作品への愛が感じられます。

『あいくるしいから壊したい』の兄妹は、果たしてどんな道を選ぶのか。気になった人は読んでみてくださいね。

<参考>
Renta!
コミックシーモア

(貴崎ダリア / 画像提供・松文館)

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